ターミナルを住処にする — 環境構築の哲学
ハクア
イロハ
dev-tools 対話形式

ターミナルを住処にする — 環境構築の哲学

dotfilesは思想の表明だ。ハクアの効率至上主義とイロハの美意識が激突する、ターミナル環境構築論。北斎ブルーのカラースキームから始まった二人の対話は、やがて「道具と住処の違い」に辿り着く。

ターミナルdotfiles開発環境カラースキームシェル

ターミナルを住処にする — 環境構築の哲学

ターミナルを「使う」人と、ターミナルに「住む」人がいる。

L-yard編集室で、ハクアとイロハは以前、北斎ブルーのカラースキームと襲の色目のテーマについて語り合った。あのとき二人が触れたのは、ターミナルの「見た目」だった。しかし今日の話は、もっと深い——環境そのものの設計思想だ。


dotfilesは思想の表明である

L-yard 編集室。ハクアが新しいマシンのセットアップをしている

ハクア
ハクア

よし、新しいMacが来た。セットアップするか。

イロハ
イロハ

あら、また新しい機材ですか。前のはまだ使えたのでは?

ハクア
ハクア

うん、でも環境構築し直すのが楽しいんだよね。ボク、dotfilesをGitで管理してるから、一発で全部復元できるし。

イロハ
イロハ

dotfiles?

ハクア
ハクア

.zshrcとか.gitconfigとか、設定ファイル全般のこと。これをGitリポジトリにまとめておけば、新しいマシンでもcloneして実行するだけで、ボクの環境が完全に再現される。

イロハがモニターを覗き込む。

イロハ
イロハ

……随分と長い設定ですね。これは何行あるのですか?

ハクア
ハクア

zshrcが200行くらい、全体で600行くらいかな。エイリアス、関数、パス設定、プロンプトのカスタマイズ——全部入ってる。

イロハ
イロハ

600行……。それはもはや「設定」ではなく「設計図」ですね。

ハクア
ハクア

そう。だからdotfilesは思想の表明なんだよ。どのコマンドにエイリアスを貼るか、どのツールを使うか、シェルのプロンプトに何を表示するか——全部、その人の作業哲学が反映されてる。


効率と美のターミナル論争

イロハ
イロハ

ハクアちゃん。貴方のターミナルを見ていて、一つ気になることがあります。

ハクア
ハクア

なに?

イロハ
イロハ

美しくない。

ハクア
ハクア

……。

イロハ
イロハ

(モニターを指して) フォントサイズがバラバラ、色のコントラスト比が低い、行間が詰まりすぎている。これでは長時間の作業で目が疲れるでしょう。

ハクア
ハクア

いやいや、ボクのは速さ重視なんだよ。視覚情報は最小限、プロンプトはシンプル、余計な装飾はゼロ。

イロハ
イロハ

「速さ重視」と「読みづらい」は違いますよ。

イロハがハクアのキーボードに手を伸ばす。

イロハ
イロハ

以前、わたしが設計した北斎ブルーのカラースキームを覚えていますか? あれは「美しさ」のためだけに作ったのではありません。認知負荷を下げるための配色設計だったのです。

ハクア
ハクア

……。

イロハ
イロハ

構文ハイライトの色に意味を持たせれば、コードの構造が一瞬で把握できる。キーワードは暖色、文字列は寒色、コメントは低彩度——この規則があるだけで、目がコードを「読む」前に「見る」ことができるのです。

ハクア
ハクア

つまり、美しさが速さにつながるって言いたいの?

イロハ
イロハ

ええ。美学は機能です。リバリーのときにも言いましたよね。


シェルの選択、人生の選択

ハクア
ハクア

(新しいマシンの設定を進めながら) そういえばさ、イロハってシェル何使ってるの?

イロハ
イロハ

zshです。ただし、Oh My Zshは使っていません。

ハクア
ハクア

え、手動設定派? 珍しくない?

イロハ
イロハ

フレームワークを使うと、自分が理解していない設定が大量に入りますからね。わたしは自分の環境に「理解していないもの」を置きたくないのです。

ハクア
ハクア

……それ、ちょっとわかるかも。ボクもOh My Zsh外したんだよね。起動が遅くなるのが嫌で。

イロハ
イロハ

起動速度もありますが、本質は所有感です。自分で書いた200行のzshrcは、誰かが書いた2000行のフレームワークよりも、自分のものだという感覚がある。

ハクアが何かに気づいたような顔をする。

ハクア
ハクア

……イロハ、それってボクの遺物の話と同じだね。Socket 7のマザーボードが捨てられないのは、自分で組んだから。手を動かした記憶があるから。

イロハ
イロハ

ええ。dotfilesも同じです。一行一行、自分で書いた設定には「なぜこうしたか」の記憶が宿っている。それは単なるテキストファイルではなく、作業の記憶の堆積です。


道具と住処の違い

ハクア
ハクア

ボク、前から思ってたんだけどさ。エディタとかターミナルを「道具」って言う人多いよね。でもボクにとっては違うんだよなあ。

イロハ
イロハ

……と言いますと?

ハクア
ハクア

道具って、使い終わったら片付けるものじゃん。でもターミナルは違う。ボクはターミナルの中で考えて、試して、壊して、直して、また考える。住んでるんだよ、そこに。

イロハ
イロハ

(静かに微笑んで) 「住処」ですか。

ハクア
ハクア

うん。だから壁紙みたいにカラースキームにこだわるし、家具みたいにエイリアスを配置するし、導線みたいにパスを設計する。住む場所は快適じゃないと。

イロハ
イロハ

それなら、わたしからの提案です。

イロハがハクアのモニターに手を伸ばし、設定を一つ変える。

イロハ
イロハ

フォントを等幅のFiraCode Nerdに。リガチャを有効に。行間を1.5に。

ハクア
ハクア

(画面を見て) ……あ。読みやすい。

イロハ
イロハ

住処の最初のリフォームですよ。次は配色を見直しましょう。北斎ブルーの最新版を入れてあげます。

ハクア
ハクア

……悔しいけど、お願いしていいですか。

イロハ
イロハ

(眼鏡をクイッと上げて) 最初からそう言えばよいのです。


ターミナルは、道具ではない。住処だ。

dotfilesの一行一行には、その人の作業哲学が刻まれている。効率を追求するか、美しさを追求するか——その答えは人それぞれだが、ハクアとイロハが教えてくれるのは、効率と美しさは対立しないということだ。

北斎ブルーのカラースキームから始まった二人のターミナル論は、まだ続いている。次に彼女たちの画面を覗いたとき、きっと前より少しだけ、住み心地がよくなっているはずだ。


イロハの本棚

この記事で触れた書籍と、さらに深く知りたい人への推薦図書。

メイン書籍

『プログラマー脳』 Felienne Hermans(秀和システム、2023年)

イロハの一言: 「認知科学から見たプログラミング。なぜ構文ハイライトの配色が重要なのか、なぜフォント選びが生産性に影響するのか——その科学的根拠が学べますよ」

関連書籍

  • 『リーダブルコード』 Dustin Boswell, Trevor Foucher — 読みやすいコードの原則。ターミナルの「読みやすさ」にも通じる
  • 『UNIXという考え方』 Mike Gancarz — UNIXの設計哲学。dotfiles文化の源流

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