二人のクリエイティブプロセス
編集室にホワイトボードが2枚ある。左はハクアの、右はイロハの。左には黒いマーカーでフローチャートが描かれ、右にはカラフルなスケッチが並んでいる。
スタート地点が違う
L-yard 編集室。金曜の夕方。二人がそれぞれのホワイトボードの前に立っている
ねえイロハ、気づいた? ボクたち、同じプロジェクトやってるのに、始め方が全然違う。
……そうですね。ハクアちゃんはいつも何から始めますか?
データ構造。まずスキーマを決めて、APIのエンドポイントを設計して、それからUIを組む。ボクの場合、構造が先、見た目は後。
わたしは逆です。まずスケッチを描く。「ユーザーがこの画面を見たとき、何を感じるか」から始めて、レイアウト、色、タイポグラフィを決める。構造は後から整合性を取る。
つまり、ボクはボトムアップで、イロハはトップダウン。
もう少し正確に言うと、ハクアちゃんは論理から感性へ。わたしは感性から論理へ。
プロセスの可視化
ちょっと面白いことやらない? お互いの制作プロセスを書き出してみよう。
イロハが頷く。二人がそれぞれのホワイトボードに書き始める。
ハクアのプロセス
| ステップ | 内容 | 思考 |
|---|---|---|
| 1 | 要件を整理する | 何を作る? 制約は? |
| 2 | データモデルを設計 | 型定義、スキーマ |
| 3 | APIを設計 | エンドポイント、入出力 |
| 4 | 最小限のUIを実装 | とりあえず動くもの |
| 5 | テストを書く | 壊れないことを確認 |
| 6 | UIを磨く | 見た目を調整 |
イロハのプロセス
| ステップ | 内容 | 思考 |
|---|---|---|
| 1 | ムードボードを作る | 雰囲気、世界観 |
| 2 | スケッチを描く | レイアウト、フロー |
| 3 | 配色を決める | 色彩の感情設計 |
| 4 | プロトタイプを作る | 動きの確認 |
| 5 | コンテンツを入れる | 実データとの整合性 |
| 6 | ディテールを詰める | 余白、アニメーション |
(見比べて) ……全然違うね。ボクのステップ1がイロハのステップ5に相当する。
そしてわたしのステップ1は、ハクアちゃんのプロセスには存在しない。
なぜ噛み合うのか
でもさ、こんなに違うのに、L-yardの記事やツールは一つのものとして成立してる。なんで?
(考えて) ……おそらく、ゴールが同じだからです。
ゴール?
「読者にとって価値のあるものを作る」。この目標は共有されています。プロセスが違っても、着地点が同じなら噛み合う。
あー、なるほど。マージするブランチが違っても、mainブランチは一つ。
(笑って) Gitで例えるのはハクアちゃんらしい。
でも実際そうじゃん。ボクが構造ブランチで作って、イロハがデザインブランチで作って、最後にマージする。コンフリクトが起きたら話し合って解決する。
そしてコンフリクトの解決こそが、創造的な瞬間なのです。
コンフリクトが創造を生む
コンフリクトが創造? Gitのコンフリクトは普通に面倒なだけだけど。
コードのコンフリクトと、クリエイティブのコンフリクトは違います。わたしが「この配色がいい」と言い、ハクアちゃんが「コントラスト比が足りない」と言う。この衝突から、どちらか一方だけでは到達できない解決策が生まれる。
北斎ブルーの記事のとき、そうだったかも。ボクが「ターミナルの背景は暗いほうが目に優しい」って言って、イロハが「でも純黒は圧迫感がある」って返して——結局、北斎の藍をベースにしたダークテーマを作った。
あれは、わたし一人では絶対に思いつかなかったアイデアです。コントラスト比という制約がなければ、ただの「きれいな配色」で終わっていた。
ボク一人でも「暗ければOK」で終わってた。制約と美学が衝突したから、いいものになった。
実践へのヒント
今日の話を、読者の方に持ち帰ってもらうなら——
自分の制作プロセスを書き出してみること?
それも大事ですが、もう一つ。自分と違うプロセスの人と組むこと。論理型の人は感性型の人と。感性型の人は論理型の人と。
一人で全部やろうとすると、自分の得意な部分だけ深掘りして、苦手な部分を後回しにしがちだもんね。ボクだったらUIを永遠に後回しにする。
わたしならデータ構造を永遠に後回しにします。
二人が同時に笑う。
……やっぱりボクたち、噛み合ってるんだな。
正確には、噛み合うように努力しているのです。自然にはいかない。お互いのプロセスを理解して、尊重して、コンフリクトを恐れないから成立する。
(パーカーのフードを被りながら) ……なんか照れるな。もう仕事するわ。
イロハの本棚
この記事で触れた書籍と、さらに深く知りたい人への推薦図書。
メイン書籍
『クリエイティブの授業』 オースティン・クレオン(実務教育出版、2012年)
イロハの一言: 「創造性は才能ではなく、習慣とプロセスの問題です。この本は、そのプロセスを始めるための最初の一歩。」
関連書籍
- 『デザインのデザイン』 原研哉 — デザインとは何かを根本から問い直す
- 『The Pragmatic Programmer』 David Thomas & Andrew Hunt — プログラマーのクリエイティブプロセスの古典