色と食欲の関係 - 飲食店が赤を使う科学的な理由
色彩

色と食欲の関係 - 飲食店が赤を使う科学的な理由

なぜマクドナルドは赤と黄色を採用するのか。色が食欲に与える影響を科学的に解説し、生理的反応・進化心理学的背景・注意獲得の3つの観点から色彩戦略を分析。飲食店のブランディングに活かせる配色のコツを紹介する。

2026/2/15更新
食欲飲食店マーケティング色彩心理

色は売上を左右する

飲食店経営において、色彩戦略を「後回し」にしているオーナーは多い。

内装、看板、メニュー、食器——これらの色を「なんとなく」で決めていないだろうか。しかし、色彩心理学の研究は明確な答えを示している。色の選択は、顧客の食欲と購買行動に直接影響を与える

マクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、すき家、ピザハット。これらのブランドが赤色をメインカラーに採用しているのは偶然ではない。数十年にわたるマーケティングリサーチと、数十億ドル規模の売上データに裏付けられた戦略的選択だ。

この記事では、色と食欲の関係を科学的に解説し、飲食店のブランディングに活かせる実践的な知見を提供する。


なぜ赤は食欲を刺激するのか

赤色が食欲を増進させる——この事実には、複数の科学的根拠がある。

1. 生理的反応

赤色は自律神経系を刺激し、心拍数と血圧を上昇させる。これは多くの研究で確認されている生理的反応だ。

心拍数が上がると代謝が活発になり、エネルギー消費が増える。結果として、空腹感が増幅される。赤い内装の店舗に入ると「なんとなくお腹が空く」という感覚は、この生理的メカニズムに基づいている。

2. 進化心理学的背景

人類の祖先にとって、赤い食べ物は栄養価の高さを示すシグナルだった。

  • 熟した果実(赤いリンゴ、イチゴ)
  • 新鮮な肉
  • ベリー類

これらは生存に必要なカロリーと栄養素を含んでいた。何十万年もの進化の過程で、「赤 = 食べ物 = 生存」という連想が脳に刻み込まれた。現代の私たちがファストフード店の赤い看板に惹かれるのは、この古代のプログラミングが作動しているからだ。

3. 注意の獲得

赤は人間の視覚システムにおいて最も注意を引く色の一つだ。

これは信号機が赤で「止まれ」を示す理由でもある。飲食店の看板やメニューで赤を使うと、競合との視認性競争で優位に立てる。

交差点に立って周囲を見渡してみてほしい。赤い看板がいかに目に飛び込んでくるかがわかるはずだ。


黄色との組み合わせ——「ケチャップとマスタードの法則」

多くのファストフードチェーンが赤と黄色の組み合わせを採用している理由は、この配色が最も効果的だからだ。

ブランド赤の役割黄色の役割
マクドナルド食欲刺激、緊急性幸福感、親しみやすさ
バーガーキングブランド認知、活力楽しさ、子どもへの訴求
ピザハット情熱、暖かさ注目、歓迎感

この組み合わせは、業界では「ケチャップとマスタードの法則」と呼ばれることがある。実際のケチャップとマスタードの色という意味もあるが、より本質的には補色に近い高コントラスト配色が視覚的インパクトを最大化することを指している。

黄色の心理効果

黄色は以下の心理効果を持つ。

  • 幸福感と楽観性: 太陽を連想させ、ポジティブな感情を喚起
  • 子どもへの訴求: 子どもは黄色に強く反応する傾向がある
  • スピード感: 「早い」「手軽」という印象を与える

ファストフードは「早くて安くて楽しい」というポジショニングを取る。赤×黄色の配色は、このブランドメッセージを視覚的に強化している。


色別・食欲への影響一覧

色が食欲に与える影響を、実務で使えるレベルで整理する。

食欲を増進させる色

効果適した業態使用例
食欲増進、興奮、緊急性ファストフード、焼肉、ラーメンマクドナルド、KFC
オレンジ楽しさ、親しみやすさ、活力ファミレス、カフェ吉野家、ファンタ
黄色幸福感、注目、スピードファストフード、軽食サブウェイ、デニーズ
茶色温かみ、自然、コーヒーカフェ、ベーカリースターバックス、ドトール

食欲を抑制する色

効果理由例外的な使用
食欲減退自然界に青い食べ物がほぼ存在しない海鮮料理店では「清潔感」として機能
不安、違和感腐敗を連想させる場合がある高級スイーツでは「上品さ」として機能
グレー無機質、食欲減退病院食を連想ミニマルな高級店では「洗練」として機能
重厚感、高級感食欲には中立だが、高価格帯で効果的高級レストラン、バー

緑の両義性

緑は特殊な位置にある。

食欲増進として機能する場合:

  • 新鮮な野菜、サラダを連想
  • ヘルシー、オーガニックのイメージ
  • ビーガン・ベジタリアン向け店舗

食欲抑制として機能する場合:

  • 青に近い緑(青緑)は食欲を減退させる
  • カビや腐敗を連想させる場合がある

緑を使う場合は、黄緑〜緑の範囲にとどめ、青みがかった緑は避けるのが鉄則だ。


青色ダイエットの科学——本当に効果はあるのか

「青い食器で食べると痩せる」という説が一時期流行した。この主張には、一定の科学的根拠がある。

コーネル大学の研究(2012年)

同大学の研究チームは、食器の色と盛り付け量の関係を調査した。結果は以下の通り。

食器の色と食べ物の色のコントラストが高いほど、盛り付ける量が減少する

青い食器は、ほとんどの食べ物と高コントラストになる(青い食材がほぼ存在しないため)。そのため、無意識に盛り付け量が減る傾向がある。

効果の限界

ただし、この効果には限界がある。

  1. 短期的効果: 新奇性による効果であり、慣れると減衰する
  2. 意識的制御可能: 知っていると効果が薄れる
  3. 食欲そのものは変わらない: 盛り付け量が減っても、空腹感は残る

飲食店経営の観点からは、青色ダイエットを逆手に取るという発想もある。ダイエット志向の顧客をターゲットにしたヘルシーカフェでは、青を効果的に使うことで「食べ過ぎを防ぐ」というブランドメッセージを伝えられる。


業態別・推奨カラースキーム

具体的な業態ごとに、推奨する配色を示す。

ファストフード

戦略目標: 回転率の最大化、衝動買いの促進

プライマリ: #E53935 (赤)
セカンダリ: #FDD835 (黄色)
背景: #FFFFFF (白)
アクセント: #212121 (黒)

赤と黄色で食欲と緊急性を刺激し、白い背景で清潔感を担保。黒のアクセントでメリハリをつける。

カフェ・コーヒーショップ

戦略目標: 滞在時間の延長、客単価の向上

プライマリ: #795548 (茶色)
セカンダリ: #D7CCC8 (ベージュ)
背景: #EFEBE9 (クリーム)
アクセント: #4CAF50 (緑)

茶色とベージュでリラックス感を演出。緑のアクセントで「自然」「オーガニック」を連想させる。滞在時間が長くなるほど追加注文が増えるビジネスモデルに適している。

高級レストラン

戦略目標: 高価格の正当化、特別感の演出

プライマリ: #212121 (黒)
セカンダリ: #D4AF37 (金)
背景: #1A1A1A (ダークグレー)
アクセント: #8B0000 (深紅)

黒と金で高級感を演出。深紅のアクセントで「特別な食事」を印象づける。食欲刺激よりも「体験価値」を重視する配色。

ヘルシー・オーガニック

戦略目標: 健康志向層の獲得、信頼感の構築

プライマリ: #4CAF50 (緑)
セカンダリ: #FFFFFF (白)
背景: #F1F8E9 (ライトグリーン)
アクセント: #CDDC39 (ライム)

緑を基調に、新鮮さと健康をアピール。白で清潔感を強調。ライムグリーンのアクセントで活力を加える。

居酒屋・和食

戦略目標: 活気の演出、「日本らしさ」の表現

プライマリ: #E64A19 (朱色)
セカンダリ: #37474F (墨色)
背景: #FFF8E1 (生成り)
アクセント: #C9A227 (金茶)

朱色と墨色で和の雰囲気を演出。生成りの背景で温かみを加え、金茶のアクセントで高級感を添える。


照明との相互作用

色彩戦略は、照明と切り離して考えることができない。同じ色でも、照明によって見え方が大きく変わる

光源の色温度

色温度特徴適した業態
2700K(電球色)暖かみ、料理が美味しそうに見えるレストラン、居酒屋、バー
4000K(白色)ニュートラル、清潔感カフェ、ファミレス
5000K以上(昼光色)明るい、やや冷たいファストフード、学食

飲食店の照明は2700K〜3500Kが鉄則だ。この範囲では、肉や野菜が自然に見え、肌も健康的に見える。5000K以上の照明では、料理が青白く見えてしまい、食欲が減退する。

調光の活用

時間帯によって照明を変える手法は、特にカフェやレストランで有効だ。

  • : やや明るめ(3500K)で活気を演出
  • 夕方〜夜: 暗めの暖色(2700K)で落ち着きを演出

これにより、同じ店舗でもランチとディナーで異なる雰囲気を作り出せる。客単価の高いディナータイムに特別感を演出することで、売上向上が期待できる。


ケーススタディ:スターバックスの緑

「緑は食欲を抑制する」と述べたが、スターバックスは緑をブランドカラーとして大成功を収めている。これは矛盾ではないのか。

スターバックスの戦略

スターバックスの緑は、食欲刺激を目的としていない。彼らの戦略目標は以下の通りだ。

  1. コーヒー = 茶色との差別化: 競合がコーヒーの茶色を使う中、緑で独自性を確立
  2. 環境配慮のイメージ: サステナビリティを重視する顧客層への訴求
  3. リラックス空間の演出: 「第三の場所」というポジショニングに合致
  4. 滞在時間の延長: 食欲を抑えることで、コーヒーを長く楽しむ体験を促進

スターバックスは「早く食べて出て行ってほしい」とは思っていない。長居してもらい、追加注文を促すビジネスモデルだ。この文脈では、緑の「食欲抑制」効果はむしろプラスに働く。

教訓

色彩戦略は、ビジネスモデルと整合している必要がある

  • 回転率重視 → 食欲増進・興奮(赤、黄色)
  • 滞在時間重視 → リラックス・落ち着き(緑、茶色)
  • 高価格帯 → 特別感・高級感(黒、金)

「赤が良い」「緑がダメ」という単純な話ではない。自店のビジネスモデルに最適な色を選ぶことが重要だ。


実践:メニュー表の最適化

店舗全体の配色が決まったら、次はメニュー表の最適化だ。メニューの色彩設計は、客単価に直接影響する

推奨商品の強調

売りたい商品(利益率の高い商品)は、視線を集める必要がある。

/* 推奨商品のハイライト */
.recommended-item {
  border: 2px solid #E53935; /* 赤枠 */
  background: #FFF3F3;       /* 薄い赤背景 */
  padding: 12px;
}

赤枠は「注目すべき」というシグナルを送る。研究によると、赤枠で囲まれた商品は注文率が15〜25%向上するというデータもある。

価格の控えめな表示

価格は目立たせすぎないことが鉄則だ。

/* 価格の控えめ表示 */
.price {
  color: #757575; /* グレー */
  font-size: 0.9em;
}

黒で大きく表示すると、顧客は価格に意識が向き、「高い」という判断をしやすくなる。グレーで控えめに表示することで、価格への注目を減らし、料理そのものに意識を向けさせる。

写真の照明

メニュー写真は、暖色系の照明で撮影する。

蛍光灯下で撮影した料理写真は青白く見え、食欲を減退させる。プロの料理写真家は、必ず暖色系のライティングを使う。スマートフォンで撮影する場合でも、色温度を調整するか、後処理で暖色に寄せることを推奨する。


ROIを意識した色彩投資

色彩戦略への投資は、測定可能なROIをもたらす

投資対効果の例

施策投資額(目安)期待効果
看板の色変更10〜50万円視認性向上、新規顧客5〜15%増
内装の塗り直し50〜200万円滞在時間・客単価の最適化
メニュー表リデザイン5〜20万円推奨商品の注文率15〜25%向上
食器の変更10〜30万円料理の見栄え向上、SNS映え

これらの投資は、1〜2年で回収できることが多い。特にメニュー表のリデザインは、投資額が小さく効果が大きいため、最初に着手すべき施策だ。

効果測定の方法

色彩戦略の効果は、以下の指標で測定できる。

  1. 客単価の変化: 推奨商品の注文率を追跡
  2. 滞在時間: 回転率ビジネスなら短縮、カフェなら延長が目標
  3. SNS投稿数: 「映える」内装は自然にSNSで拡散される
  4. 再来店率: 心地よい空間は再来店を促す

色を変えた前後で、これらの指標を比較することで、投資対効果を定量化できる。


まとめ——色は経営判断である

色彩は「感性」の問題ではない。データに基づく経営判断だ。

  • 赤と黄色は食欲を刺激し、回転率を上げる
  • 茶色と緑はリラックスを促し、滞在時間を延ばす
  • 黒と金は高級感を演出し、高価格を正当化する
  • 照明との組み合わせで、同じ色でも効果が変わる

これらは科学的研究と、数十年の実務経験に裏付けられた知見だ。

色彩戦略を「後回し」にしているなら、今すぐ見直すべきだ。看板、内装、メニュー、食器——これらすべてが、顧客の購買行動に影響を与えている。

競合が無意識に色を選んでいる中、戦略的に色を選ぶことは、それだけで競争優位になる。



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