マクドナルドはなぜ赤と黄色なのか。銀行はなぜ青ばかりなのか。
色の選択に偶然はない。それは色彩心理学に基づいた、人間の心理への精密な介入だ。
対話パート1: ファストフードが赤と黄色を選ぶ理由
昼休み。ハクアがコンビニから戻ってきた。
ねえ、さっき外出たんだけどさ。マクドナルドとKFCって、両方赤いじゃん。どっちも看板が赤。あれって、別に意識してないんだよね?なんとなく?
……なんとなくで、世界中の店舗の看板を赤にすると思う?
……まあ言われたら確かに。意図があるのか。
色彩心理学という分野があります。色が人間の感情・行動・認知に与える影響を研究する学問です。マクドナルドの赤は、その応用例。
赤ってどんな効果があるの?
赤は生理的な覚醒反応を引き起こします。心拍数が上がる。注意を引く力も最も強い。そして——食欲を増進させる。
食欲……。だからファストフードに多いのか。
飲食店に赤が多い理由がそこです。「今すぐ食べたい」という衝動を後押しする色。セールや割引表示に赤が使われるのも、緊急性を感じさせる効果があるから。
じゃあ黄色は?マクドナルドは赤と黄色のセットで使ってる。
黄色は幸福感と注意喚起。太陽や明るさの連想から、ポジティブな感情を呼びやすい。道路標識に黄色が使われる理由でもあります。赤の興奮と黄色の幸福感——その組み合わせが「楽しくてすぐ食べたい」という体験を作り出している。
なるほど。じゃあスタバは?あれは緑だよね。
スターバックスの緑は、戦略が逆です。赤が「今すぐ、興奮して」なら、緑は「ゆっくり、くつろいで」。緑は最も目に優しい色で、リラックス効果があります。自然、健康、安心の連想を呼ぶ。スタバが「カフェでゆっくり過ごす場所」として差別化しようとしたとき、緑は必然の選択だった。
ファストフードとカフェで、逆の色を使って、逆の体験を売ってるんだ。
そういうことです。
対話パート2: 銀行が青を選ぶ理由
次は銀行。みずほも三菱UFJも青いじゃん。なんで?
青は、世界で最も好まれる色です。複数の国際調査で一貫して1位。
それはわかった。でも「好き」と「信頼できる」は違うでしょ。
鋭い。青の効果は「好かれる」だけじゃない。最も「信頼できる」と感じさせる色でもあります。空や海の連想——広大で変わらない存在——から安心感が生まれる。金融や保険が「あなたのお金を守ります」と訴えるとき、その感情的裏付けを最も効率よく与えられる色が青なんです。
Facebook、Twitter、LinkedInも青だよね。
テクノロジー業界も青を好む傾向がある。「信頼できる技術」という印象を植えつけるのに適しているから。IBM も、Intel も、青。
じゃあ青を使えば全部うまくいくのでは。
——そう思いたくなりますが。
?
青は信頼感を与えますが、行動を促す力は弱い。「今すぐ購入」ボタンを青にしても、押したいとはあまり思わない。目的によって「適切な色」が変わるんです。
用途がある。色は万能じゃないんだ。
対話パート3: AppleはなぜシンプルなのかAppleが白と黒を使う理由
Appleはどう説明する?あそこ、白か黒しか使わないイメージ。
黒は高級感と権威の色です。歴史的にラグジュアリーブランドが使い続けてきた——シャネル、ナイキ。力強さ、専門性、洗練。そして白は清潔感とミニマリズム。余白の美、開放感。医療や衛生の象徴でもある。
黒が「高級」で、白が「清潔」……Appleはその二つを組み合わせてる?
「洗練されていて、清潔で、機能美がある」——Appleが作りたいイメージを、色が代弁している。製品の色だけじゃなく、広告、パッケージ、店舗空間まで一貫させることで、ブランドのイメージを統合している。
そういえば、ピンクって攻撃性を抑えるって聞いたことある。
1970年代にアメリカで行われた刑務所実験の話ですね。壁を特定のピンク——「ベイカーミラーピンク」に塗ったところ、囚人の攻撃性が短期間で低下したという記録があります。
本当に?
短期的な効果は観察されましたが、長期的な効果は確認されていない。この実験は「色が生理的反応を引き起こす可能性がある」という議論の出発点にはなっていますが、過信は禁物です。
色は思ったより深い。
対話パート4: 色の4つの影響要因と「文化の壁」
でも、赤って危険の色じゃないの?中国では赤が縁起いいって聞いたけど。
そこが重要な点です。色が心理に与える影響は、4つの要因が複雑に絡み合っています。
4つ?
ひとつめ、生物学的要因。赤は血や危険を連想させる——これは進化的な反応で、文化を超えて一定程度共通する。ふたつめ、文化的学習。「赤は危険」は西洋で広まった文化的な学習です。でも中国では赤は幸運と祝いの色——まったく逆の意味を持つ。
同じ色なのに、正反対の意味か。
みっつめ、個人的経験。特定の色と記憶が結びついている場合、その色への反応は個人ごとに大きく異なる。よっつめ、コンテキスト——文脈。同じ色でも、状況や周囲の色次第で意味が変わる。
白も確か……?
白は典型的な文化差の例です。西洋では純粋さ、結婚式のドレスの白。東アジアでは喪、弔いの色——日本でも葬儀に白が使われる場面がある。グローバルな展開をするブランドが、色の使い方に慎重になる理由がここにあります。
色は普遍的じゃないんだ。
普遍的な傾向はあります。でも「この色はこういう意味」と断言できるほど単純ではない。
対話パート5: 「赤ボタン最適説」という誤解
じゃあ「CTAボタンは赤にするとクリックされやすい」ってよく聞くけど、あれは?
HubSpotが行ったA/Bテストの話ですね。緑のCTAボタンと赤のCTAボタンを比べたら、赤が21%高いコンバージョンを示したという結果が広まった。
赤が正解ってこと?
……そのテスト、ページ全体が緑系のデザインだったんです。
あ、そうか。緑のページに赤が映えるから目立った——コントラスト効果か。
そのとおり。もしページが赤系だったら、赤いボタンは背景に溶け込んで逆効果になる。「赤いボタンは常に最適」ではなく、「ページの中で目立つ色が最適」という話。絶対的に良い色はない。コンテキスト次第。
……じゃあ「青は信頼感があるから使いましょう」みたいな記事は?
傾向として正しい場合もありますが、文脈を無視した適用は危険です。青が信頼感を与えるのは、そのコンテキストで青が適切に機能するとき。別のコンテキストでは、青は退屈さや冷たさとして受け取られることもある。
「色の効果は魔法」じゃなくて、「文脈の言語」なのか。
……うまい表現ですね。色は意味を固定して持つのではなく、文脈の中で意味を作り出す。
実践: 色を選ぶ前に問うべきこと
色彩心理学を設計に活かすには、「この色はどんな効果があるか」より先に問うべきことがある。
目的と文脈から色を選ぶ
| 目的 | 検討すべき色 |
|---|---|
| 信頼感を築きたい | 青、緑 |
| 行動を促したい | 赤、オレンジ(周囲との対比を確認) |
| 高級感を出したい | 黒、紫、金 |
| 健康・自然を伝えたい | 緑、茶、ベージュ |
| 清潔感を示したい | 白、ライトブルー |
70-30-10の構成比
色の組み合わせには、バランスの基準がある。
- 70%: ベースカラー——背景や大きな面積
- 30%: セカンダリカラー——補助、サブ要素
- 10%: アクセントカラー——CTAボタン、強調部分
アクセントを絞ることで、「見てほしい場所」に視線を誘導できる。
デザイン前のチェックリスト
□ ターゲット層の文化的背景を確認した
□ ブランドの価値観と色が一致している
□ 周囲の色とのコントラストを確認した
□ アクセシビリティ(色覚多様性)を考慮した
□ A/Bテストで実際の効果を検証する計画がある
まとめ: 色は「雰囲気」ではなく「設計」
整理すると、色は「なんとなく好き」じゃなくて、人間の反応に基づいた設計ツールなんだ。
そう。4つの要因——生物学的・文化的・個人的・文脈的——が複雑に絡んでいる。だから「この色は常に最適」という公式は存在しない。
コンテキストを読んで、目的を決めて、その上で色を選ぶ。
色の選択が先ではなく、「何を伝えたいか」「誰に向けているか」が先。色はその答えを伝えるための言語です。
……マクドナルドの設計者、ちゃんと考えてたんだな。
偶然が許されない世界に、偶然はないんです。
色彩心理学の面白さは、「知ると見え方が変わる」点にある。街の看板、Webサイトのボタン、商品パッケージ——すべてに意図がある。
当サイトのパレット生成ツールで、今日学んだ心理効果を意識した配色を試してみてほしい。