2026年の色はなぜこの色なのか — トレンドカラーの社会心理学
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2026年の色はなぜこの色なのか — トレンドカラーの社会心理学

なぜ今年の色は「モカムース」なのか。#A47864というHEXコードにしか見えないハクアに、イロハが時代と色の結びつきを解き明かす。横道に逸れるたびに軌道修正しながら、色が社会心理を映す鏡であることを探る対話。

トレンドカラーPantone色彩心理学2026デザイン社会心理

毎年1月、Pantoneが「今年の色」を発表するたびに、デザイン界隈は沸く。2026年の「Mocha Mousse」を聞いたハクアの第一声は、「#A47864か。ボクのターミナル、これに近い色にしてたわ」だった。


対話パート1: HEXコードの向こう側

ある朝。イロハがスケッチブックを開いていた。

イロハ
イロハ

ハクアちゃん、今年のPantone Color of the Yearを知っていますか?

ハクア
ハクア

あー、モカムースってやつでしょ。見た。#A47864か。……ボクのターミナルテーマ、これに近い色で組んでたんだよね。

イロハ
イロハ

……貴方のターミナルの話は、一旦置いておきましょう。

ハクア
ハクア

え、なんで。関係あるじゃん。

イロハ
イロハ

関係はあります。でも今は「なぜこの色が選ばれたか」の話をしたい。貴方は、Pantoneがどうやってこの色を選ぶか知っていますか?

ハクア
ハクア

なんとなく……デザイナーの集まりが「これかっこいいよね」で決めてるとか?

イロハ
イロハ

逆です。Pantoneのカラーインスティチュートは、ファッション・インテリア・プロダクト・街中の色——あらゆる場所を観察して、社会が次に何を必要としているかを読む。「かっこいい」ではなく、「時代が求める感情」を色にする。

ハクア
ハクア

えっ、予測じゃなくて観測?

イロハ
イロハ

観測であり予測でもある。時代の空気がすでに色に滲み出ているものを見つけ、名前をつけて公式化する——その作業がColor of the Yearです。


対話パート2: 時代が「茶色」を求めた理由

ハクア
ハクア

でも、なんで2026年に茶色なんだろ。コーヒー色っていうか……暗くない?

イロハ
イロハ

「Quiet Luxury」という言葉を聞いたことはありますか?

ハクア
ハクア

あー、高いブランドのロゴなし系の服とか?

イロハ
イロハ

そうです。「静かな贅沢」——派手な色やロゴで主張するのではなく、上質な素材と落ち着いた色調で品格を示す。この傾向が2023年頃から強まり、2026年にピークに達しつつある。

ハクア
ハクア

……たしかに、ネオン全開のUIって最近あんまり見なくなった気がする。

イロハ
イロハ

貴方のターミナルも、いつからか落ち着いた配色になりましたね。

ハクア
ハクア

(ちょっと間)……あ、それ言いたかったやつ! ボク、5年前はドラキュラ系のビビッドな配色にしてたんだけど、いつの間にかグリーンとかグレーに落ち着いてって——

イロハ
イロハ

ハクアちゃん。

ハクア
ハクア

は?

イロハ
イロハ

ターミナルの話は、続きは後で聞きます。社会全体の話に戻りましょう。

ハクア
ハクア

……また軌道修正された。


Mocha Mousseが選ばれた背景には、いくつかの社会的文脈がある。

社会文脈Mocha Mousseが応える感情
不確実な時代への不安温かみ・安心感
自然素材回帰トレンド大地・コーヒー・チョコレート連想
Quiet Luxury の台頭静かな上質さ
包容性への関心どんな肌色にも馴染む普遍性

イロハ
イロハ

Pantoneの選定コメントに「日常の中の小さな贅沢と喜び」という表現がありました。コーヒーを一杯飲む時間、本を読む午後——そういう「小さな豊かさ」への回帰です。

ハクア
ハクア

あー、なんかそれ分かる。スペックや機能じゃなくて、「体験の質」みたいな。

イロハ
イロハ

そうです。そして重要なのは——このモカムースが「流行っているから選ばれた」のではなく、「社会がこの感情を必要としているから選ばれた」という点です。

ハクア
ハクア

鶏と卵的なやつ?

イロハ
イロハ

トレンドは卵を産む鶏を観察して見つける、とでも言いましょうか。


対話パート3: 色はコンテキストの産物

ハクア
ハクア

でも待って。同じ#A47864でも、使い方次第で全然違って見えるじゃん。カフェのロゴに使えばリッチに見えるけど、安売りチラシに使ったら……微妙かも。

イロハ
イロハ

ようやく核心に触れましたね。色そのものに意味はない。コンテキストが意味を与える

ハクア
ハクア

てことは、モカムースが「上質」に見えるのは、今の時代と文脈があるから?

イロハ
イロハ

そうです。10年前の#A47864は「ダサいブラウン」と言われていた可能性がある。今は「Quiet Luxuryを体現するアースカラー」になっている。色は変わっていない——時代が変わった。

ハクア
ハクア

……じゃあ#000000だって、文脈次第でラグジュアリーにも喪にもなるわけだ。

イロハ
イロハ

貴方は本質的なことを言っています。黒はAppleの洗練でもあり、弔いの色でもある。白は清潔さの象徴でもあり、東洋では死を意味することがある。同じ波長の光が、文化と文脈でまったく異なる意味を纏う。

ハクア
ハクア

(しばらく考えて)……じゃあHEXコードは座標で、意味は射影なのか。

イロハ
イロハ

(眼鏡を上げる)……その表現は、なかなか正確ですね。

ハクア
ハクア

(小声で)さっきのターミナルの話、続きいい?

イロハ
イロハ

……聞きましょう。

ハクア
ハクア

ボクのテーマが徐々に落ち着いた色になっていったのは、たぶん深夜作業が増えて、目が疲れなくなる配色を自然に探してたからだと思う。社会の動きと関係なく。

イロハ
イロハ

……そうとは限りません。貴方が「目に優しい配色」を求めた背景には、スクリーン時間の増加という社会変化がある。個人の選択と社会の流れは、気づかないうちに繋がっているものです。

ハクア
ハクア

(少し間)……つまりボクも、不知不識のうちにトレンドの一部だったってこと?

イロハ
イロハ

ふふ、そういうことです。


色は時代が作り、時代に作られる

Pantone Color of the Yearは、デザイナーの恣意的な選好ではない。社会が集団的に必要としている感情を、一つの色に圧縮した「時代の肖像」だ。

2026年のMocha Mousseは、不確かな時代に小さな温もりを求める声の結晶であり、Quiet Luxuryというムードの公式化でもある。HEXコードは座標に過ぎないが、その座標が意味を持つのは、無数の人が同じ方向を向いているからだ。


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