『Clean Code』Robert C. Martin - 読みやすいコードを書くための技術書バイブル
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『Clean Code』Robert C. Martin - 読みやすいコードを書くための技術書バイブル

「動くコード」と「良いコード」は違う。ソフトウェア開発の巨匠アンクル・ボブが説く、保守性と可読性を両立するコーディング原則。変数名の付け方から設計思想まで網羅した実践ガイド。

書籍レビュー プログラミング ソフトウェア設計 Robert C. Martin 技術書

この本について

『Clean Code』(原題: Clean Code: A Handbook of Agile Software Craftsmanship)は、ソフトウェア開発の世界で「アンクル・ボブ」の愛称で知られるRobert C. Martinの代表作だ。2008年の原著発売以来、世界中のプログラマーに読み継がれ、「コードの品質」について語る際の共通言語となっている。

著者のRobert C. Martinは、1970年代からソフトウェア開発に携わるベテランエンジニア。SOLID原則の提唱者であり、アジャイルマニフェストの共同署名者でもある。本書では、その長年の経験から蒸留された「きれいなコード」の原則を、豊富なJavaのコード例とともに提示する。

日本語版は約464ページ。原著のコードサンプルはJavaだが、原則そのものは言語を問わず適用できる。TypeScript、Python、Go——どの言語を使っていても、本書から学べることは多い。


こんな人におすすめ

  • 「動くコードは書けるが、きれいかどうか自信がない」エンジニア - 何が「きれい」なのか、具体的な基準と実例が手に入る
  • チーム開発でコードレビューを行う人 - レビューの指摘事項に明確な根拠を持てるようになる
  • レガシーコードの保守に苦しんでいる人 - なぜコードが読みにくくなるのか、その構造的な原因が理解できる
  • 独学でプログラミングを学んだ人 - 教科書では教わらない「職人としてのコーディング」の考え方が身につく
  • AIコーディングツールを使い始めた人 - 生成されたコードの品質を評価し、改善する目を養える

読みどころ

意味のある名前

本書の序盤でもっともインパクトがあるのが、第2章「意味のある名前」だ。

変数名や関数名を適当につけているエンジニアは、自分のコードを読む未来の誰か——多くの場合は未来の自分——に対して不親切である。

たとえば d という変数名。経過日数なのか、距離なのか、直径なのか。elapsedTimeInDays と書けば、コメントなしで意味が伝わる。Martinは「名前はコメントの代わりになるべきだ」と繰り返し述べる。

この原則は単純だが、実践は難しい。本書では「意図を明確にする名前」「誤解を招かない名前」「検索可能な名前」といった具体的なルールが列挙され、即座に自分のコードに適用できる。

関数は小さく、一つのことだけを行う

第3章「関数」で示される原則はシンプルだ。関数は小さくあるべきであり、一つのことだけを行うべき

Martinは「関数の適切な長さ」について、20行以下を推奨する。これは極端に聞こえるかもしれないが、彼の主張を読み進めるうちに納得感が増してくる。長い関数は複数の責務を抱えており、それぞれを個別の関数に分離することで、テスタビリティと可読性が向上する。

特に示唆に富むのは「抽象度のレベルを揃える」という原則だ。一つの関数の中に、高レベルの概念(「ユーザーを認証する」)と低レベルの詳細(「文字列をBase64エンコードする」)が混在していると、読み手は常にコンテキストスイッチを強いられる。

エラー処理の哲学

第7章「エラー処理」は、多くの開発者が見落としがちな領域を深掘りする。

Martinの主張は明快だ。エラー処理のコードがビジネスロジックを覆い隠してはならないtry-catch ブロックが関数の半分を占めるようなコードは、エラー処理とビジネスロジックを分離すべきサインだ。

また「nullを返さない、nullを渡さない」という原則は、TypeScriptの strictNullChecks やRustの Option 型と共鳴する。2008年に書かれた本書の先見性が光る部分だ。

コードの「匂い」を嗅ぎ分ける

第17章「匂いとヒューリスティックス」は、本書の集大成ともいえるチャプターだ。コードの問題を「匂い」(Code Smell)として分類し、65の具体的なパターンを列挙する。

カテゴリ
コメント不適切な情報、冗長なコメント、コメントアウトされたコード
環境複数ステップのビルド、複数ステップのテスト
関数出力引数、フラグ引数、使われない関数
名前意図が伝わらない名前、エンコードされた名前

このチェックリストはコードレビュー時の参照資料として、実務で繰り返し使える。


2026年に読む意味

本書は2008年の著作であり、コード例はJava中心だ。「古い本」と感じるかもしれない。しかし2026年の開発環境を考えると、むしろ重要性は増している。

AIコーディングツールとの共存。CursorやClaude Code、GitHub Copilotが生成するコードは「動く」が、必ずしも「きれい」ではない。AIが書いたコードの品質を判断し、リファクタリングする力は、本書が教える「コードを読む目」そのものだ。

リモートワークの常態化。対面で「ここ何やってるの?」と聞ける機会が減った今、コード自体が語る力——つまり可読性——は生命線だ。


関連書籍

  • 『リファクタリング 第2版』マーティン・ファウラー - Clean Codeの実践編。既存コードをどう改善するかの具体的手法
  • 『レガシーコード改善ガイド』マイケル・フェザーズ - テストのないコードベースを安全に改善する技術
  • 『プログラマが知るべき97のこと』 - 世界中のプログラマが1ページずつ知恵を語るオムニバス
  • 『達人プログラマー 第2版』 - ソフトウェア職人としての姿勢と実践を説く姉妹書

まとめ

『Clean Code』は、プログラマーにとっての「作法書」だ。茶道や武道に作法があるように、コーディングにも守るべき型がある。本書はその型を、理由とともに教えてくれる。

すべてのルールに賛同する必要はない。20行以下の関数が現実的でない場面もある。しかし「なぜきれいなコードが重要なのか」という問いに対する答えを持つことは、AIがコードを書く時代においてこそ、エンジニアの核心的な能力となる。

一度読んで終わりではなく、半年ごとに読み返すと新しい発見がある。その意味で、本書は「投資」としてのリターンが極めて高い一冊だ。


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