この本について
『エッセンシャル思考』(原題: Essentialism: The Disciplined Pursuit of Less)は、シリコンバレーのコンサルティング会社THIS Inc.のCEOであるグレッグ・マキューンの代表作だ。Apple、Google、Facebook、Twitterなどのアドバイザーを務めてきた著者が、「より少なく、しかしより良く」(Less but better)という生き方を体系的に説いている。
2014年の原著発売以来、20カ国語以上に翻訳され、日本では累計50万部を超えるベストセラーとなった。
本書の問いはシンプルだ。「今、自分にとって本当に重要なことは何か?」。多くの人がすべてに手を出し、すべてを中途半端にしている現代において、この問いに正面から向き合う本は意外と少ない。
こんな人におすすめ
- 毎日忙しいのに成果が出ない人 - 「何をやめるべきか」の判断基準が手に入る
- 断れない性格の人 - 上手に「ノー」と言う技術が学べる
- 仕事もプライベートもパンク気味の人 - 優先順位を見極めるフレームワークが得られる
- 完璧主義で疲弊している人 - 「すべてをやらなくていい」という許可をもらえる
- チームのリーダー - メンバーが本質的な仕事に集中できる環境の作り方がわかる
読みどころ
非エッセンシャル思考の罠
マキューンは、多くのビジネスパーソンが陥る罠を「非エッセンシャル思考」と名づける。
やらなくてはと考える。どれも大事だと考える。全部こなす方法を考える。
これに対し、エッセンシャル思考は:
やると決める。大事なことは少ないと知っている。何かを捨てる方法を考える。
違いは「考え方」だけではない。仕組みが違う。非エッセンシャル思考は「与えられたものすべてに反応する」受動的な生き方であり、エッセンシャル思考は「自分で選ぶ」能動的な生き方だ。
「選ぶ」力を取り戻す
本書で最も重要な概念は**「選択」**だ。
マキューンは言う——私たちは「選択肢」を持っているのではなく、「選ぶ力」を持っている。この2つは決定的に違う。選択肢は外から与えられるが、選ぶ力は自分のものだ。
しかし多くの人は、忙しさのなかで「選ぶ力」を手放している。上司に頼まれたから。同僚に誘われたから。断ると悪いから。こうして、自分の人生の舵を他人に委ねてしまう。
エッセンシャル思考の第一歩は、この「選ぶ力」を意識的に取り戻すことだ。
90点ルール
優先順位を決めるための具体的な基準として、マキューンは90点ルールを提案する。
ある選択肢を評価するとき、100点満点で点数をつけてみる。90点未満なら、それは0点と同じとして切り捨てる。
「まあまあ良い」はノー。「かなり良い」もノー。「絶対にイエス」でなければ、それはノーだ。
このルールは厳しく感じるかもしれない。しかしマキューンが指摘するように、「まあまあ良い」選択肢を受け入れ続けた結果が、今の「忙しいのに成果が出ない」状態なのだ。
トレードオフを直視する
エッセンシャル思考のもう一つの核心は、トレードオフの受容だ。
何かに「イエス」と言うことは、必ず別の何かに「ノー」と言うことを意味する。この現実を直視せず、「全部やれる」と思い込むのが非エッセンシャル思考の典型だ。
マキューンは、戦略コンサルタントとしてのキャリアで数多くの企業を見てきた。成功する企業は例外なく**「何をやらないか」**を明確にしている。逆に、あれもこれもと手を広げた企業は、やがて中途半端になり、どの市場でも勝てなくなる。
これは個人の人生でも同じだ。
実践への活用
ステップ1:現在の「やること」を書き出す
まず、今抱えているタスク、プロジェクト、約束、習慣をすべて書き出す。仕事もプライベートも含めて、漏れなくリスト化する。
ステップ2:90点ルールで仕分ける
各項目に100点満点で点数をつける。90点未満は「やめる候補」だ。最初は抵抗があるかもしれないが、リストの半分以上が90点未満なら、それが「忙しいのに成果が出ない」原因そのものだ。
ステップ3:「上手なノー」を練習する
断り方のテンプレートを用意しておく。
- 「今は○○に集中しているので、今回は見送らせてください」
- 「スケジュール的に難しいです。次の機会にぜひ」
- 「代わりに△△さんが適任かもしれません」
即答を避け、「確認して折り返します」と一度持ち帰るのも有効だ。その場のプレッシャーで安易にイエスと言わないための防波堤になる。
ステップ4:バッファを設計する
マキューンは、予定にバッファ(余白)を組み込むことを強く推奨している。予定の120%ではなく80%で設計する。残りの20%が、不測の事態への備えと、本質的なことを考える時間になる。
関連書籍
- 『人を動かす』D・カーネギー - 人間関係の原則を説いた古典
- 『7つの習慣』スティーブン・R・コヴィー - 「重要だが緊急でないこと」に集中する思考法
- 『ファスト&スロー』ダニエル・カーネマン - 意思決定のバイアスを知る
- 『SINGLE TASK 一点集中術』デボラ・ザック - マルチタスクの害と一点集中の力
- 『限りある時間の使い方』オリバー・バークマン - 時間管理の根本的な発想転換
まとめ
『エッセンシャル思考』は、時間管理やタスク管理のテクニック本ではない。「何に自分の有限な時間を使うか」という、人生の根本的な問いに答える本だ。
「より少なく、しかしより良く」——このシンプルな原則を実践するのは、言うほど簡単ではない。社会は「もっとやれ」「もっと稼げ」「もっと成長しろ」と叫び続けている。
しかしマキューンが示すように、すべてに手を出す人生は、結局何も成し遂げられない人生になりかねない。99%を捨てる勇気を持ち、残りの1%に全力を注ぐ。その1%こそが、自分にとって本当に大切なことなのだ。
忙しさに疲れた人、成果が出ない焦りを感じている人にこそ、一度立ち止まって読んでほしい一冊だ。