友人に「レースゲームを始めたいんだけど、何からやればいい?」と聞かれたとき、何と答えるか。
F1 24。ACC。Gran Turismo。Forza。選択肢は多い。コントローラーかハンコンか。オンラインかオフラインか。情報は溢れているのに、最初の一歩で正解を引ける人は少ない。
対話パート1: 最初のゲーム選び
L-yard 編集室。ハクアがスマホの画面を見せてくる
ねえイロハ、友達が「レースゲーム始めたい」って言ってるんだけど、何を勧めればいいかな。
その方は、何を求めているんですか?
うーん。「速く走りたい」って言ってた。
……それは全員そう言います。問題は、「速く走りたい」の中身が人によって違うこと。
中身?
「カジュアルに友達とワイワイ走りたい」のか、「本気でタイムを詰めたい」のか。「F1ドライバーの気分を味わいたい」のか、「実車の挙動を学びたい」のか。目的によって最適な入口が変わります。
あー確かに。じゃあ「まずはF1ドライバーの気分を味わいたい、でもそのうち本気で走りたい」って感じだとしたら?
それなら選択肢は二つに絞れます。F1 24とACC(Assetto Corsa Competizione)。
両方やってるけど、全然違うゲームだよね。
ええ。その違いは「ゲーム性の差」ではなく、学習曲線の設計思想の差です。
| F1 24 | ACC | |
|---|---|---|
| アシスト | 充実 | 最低限 |
| 学習曲線 | 緩やか | 急 |
| 挙動 | ややアーケード寄り | フルシミュレーション |
| 車種 | F1マシン | GT3カー |
| オンライン | カジュアル〜シリアス | シリアス向け |
じゃあ初心者にはF1 24でいいよね。アシスト充実してるし。
同意します。ただ、一つだけ補足。F1 24を「簡単なゲーム」だから勧めるのではなく、学習の足場が整っているから勧める、というニュアンスが重要です。
足場?
レーシングラインの表示、ブレーキアシスト、トラクションコントロール——これらは「ゲームを簡単にするもの」ではなく、正しい操作を段階的に学ぶための補助輪。全部ONから始めて、一つずつOFFにしていく。そうすることで「何ができて、何ができないか」が明確になる。
なるほど。ACCだと最初から補助輪なしだから、何ができないかすら分からないまま走ることになる。
そのとおりです。
対話パート2: アシスト設定という「学習設計」
じゃあ、具体的にF1 24のアシスト設定はどうすればいい?
最初は以下の設定がおすすめです。
| アシスト | 推奨設定 | 理由 |
|---|---|---|
| ブレーキアシスト | 低 or OFF | ONだと限界ブレーキングを学べない |
| ABS | ON | ブレーキロック防止。実車でも標準装備 |
| トラクションコントロール | 中〜高 | スピン防止。最初はここを頼る |
| レーシングライン | コーナーのみ | フルラインは頼りすぎになる |
| ギアボックス | オート | 慣れたらマニュアルへ |
ブレーキアシストはOFFにするんだ。
ブレーキアシストをONにしていると、いつブレーキを踏むべきかを自分で判断しなくなる。レースゲームで速くなるためには、ブレーキングポイントの判断力が最も重要な能力なんです。
速さの80%はブレーキングで決まるって言うもんね。
……よく知っていますね。
実感してるから。スロットル全開は誰でもできる。でもブレーキを「あと5m遅らせる」「あと0.5秒長く踏む」——そこで差がつく。
そう。だからこそ、ブレーキアシストだけは早めにOFFにする。逆にトラクションコントロールは高めに設定しておいて構いません。スピンの恐怖をなくした状態で、ブレーキングに集中する——これが最も効率的な学習順序です。
全部一気にOFFにするんじゃなくて、一つずつ外していくのが大事なんだな。
学習の本質は「変数を一つに絞る」こと。同時に複数の課題に挑むと、何が原因で失敗したか分からなくなる。
対話パート3: 「速さ」より「一貫性」
でさ、友達に「どうやったら速くなる?」って聞かれたら、なんて答える?
「速くなろうとするな」と答えます。
……え。
初心者が最初に目指すべきは「速いラップ」ではなく「安定したラップ」。10周走って、全てのラップタイムが1秒以内に収まる。スピンしない。コースアウトしない。
あー、それ言ってた。一貫性が大事って。
同意してくれるのは嬉しいですが、深掘りしましょう。なぜ一貫性が速さに先立つのか。
……なぜ?
一貫して同じラインを走れないと、改善のベースラインがないから。「今回は1分30秒だった」「次は1分28秒」——でもそれが「たまたま良かった」のか「何かを改善した結果」なのか区別できない。
再現性がないと、改善を積み重ねられない。
そういうことです。速いドライバーは「速いラップが走れる」のではなく、「安定した土台の上に少しずつ速さを積み上げた」結果として速い。
一発の速さを追いかけてスピンするより、ミスなく走る方が実はタイムがいい……。
レースでは特にそう。予選は一発勝負ですが、レースは完走が前提。ミスなく安定して走れるドライバーが、結果的に順位を上げます。
対話パート4: 練習の組み立て方
練習ってどうするのがいい? とにかく周回すればいい?
漫然と走っても上達しません。練習は目的を持って構成する必要があります。
タイムアタックから始める
まず、レースではなくタイムアタックから入る。他の車がいない状態で、1つのサーキットを繰り返し走る。
対戦の方が面白いのに?
他の車がいると、「避ける」「追いかける」という判断が発生して、自分の操作に集中できない。まずは自分の操作精度を上げることが先。
おすすめ練習サーキット
| サーキット | 特徴 | 練習ポイント |
|---|---|---|
| バーレーン | 中速コーナーが多い | 基本操作の習得 |
| モンツァ | ストレートが長くシンプル | ブレーキング精度 |
| スパ | テクニカルで多彩 | 総合力の確認 |
| 鈴鹿 | 全スキルが問われる | 中級者以降の挑戦 |
バーレーンから始めるのがいいってことか。
罠のないサーキットで基本を固める。モンツァは高速ブレーキングの練習に最適。スパと鈴鹿は、基本ができてから。
テレメトリを見る
テレメトリって、あのグラフのやつ?
スロットルとブレーキの踏み込み量が時系列で表示されるデータです。F1 24もACCも対応しています。
正直あんまり見てないかも。
……見てください。自分の操作を客観的に確認できる唯一の手段です。「自分ではスムーズに操作しているつもり」なのに、グラフを見ると急激な入力をしている——そういう発見が上達の鍵になります。
うっ。
速いドライバーのテレメトリと比較すると、さらに効果的。ブレーキングポイントの違い、スロットルの開け方の差——データは嘘をつきません。
対話パート5: コントローラーかハンコンか
最後に機材の話。友達にハンコン勧めるべき?
いいえ。最初はコントローラーで十分です。
お、意外。ボクてっきり「ハンコン買え」って言うかと。
ハンコンは確かに精度と没入感で優れています。でも初心者がまず学ぶべきは「ブレーキングポイント」「ライン取り」「一貫性」——これらはコントローラーでも十分に学べる。
| 項目 | コントローラー | ハンコン |
|---|---|---|
| 操作精度 | 十分 | 高い |
| 没入感 | 普通 | 高い |
| 追加投資 | 0円 | 3〜20万円 |
| 学習効率(初心者) | 高い | やや高い |
「まずコントローラーで走れるようになってから、ハンコンを検討する」っていう順番か。
道具を変える前に、自分の技術を上げる。ハンコンは「上手い人がさらに上手くなるためのツール」であって、「初心者を上手くするツール」ではありません。
それは……ちょっとグサッと来るな。ボクも最初「良い機材を買えば速くなる」と思ってたから。
機材は「天井を上げる」もの。でも「床を上げる」のは練習だけ。床が低いままだと、天井を上げても意味がない。
名言っぽいこと言うなあ。
実践チェックリスト: 最初の1週間
| 日 | 内容 | 目標 |
|---|---|---|
| 1日目 | F1 24をインストール、アシスト設定 | 上記テーブルの通りに設定 |
| 2日目 | バーレーンでタイムアタック | 5周連続でコースアウトなし |
| 3日目 | 同じサーキットで周回 | ラップタイム差2秒以内 |
| 4日目 | テレメトリを初めて確認 | ブレーキの踏み方を観察 |
| 5日目 | AI難易度50でレース | 完走が目標(順位は気にしない) |
| 6日目 | モンツァでタイムアタック | ブレーキングポイントの練習 |
| 7日目 | 1週間の振り返り | 最初のラップタイムと比較 |
まとめ: 最初のコースに立つ前に
整理すると、初心者に伝えることは3つか。
3つ、挙げてみてください。
1つめ、F1 24から始める。アシストを全部ONにして、一つずつ外す。
2つめは?
速さより一貫性。10周走って1秒以内に揃える。スピンしない。
3つめ。
機材は後から。コントローラーで基本を身につけてから、ハンコンを考える。
……完璧ですわ。
あと一つ追加していい?
どうぞ。
楽しむこと。上達の最大のエンジンは楽しさだから。
……それが、一番大事かもしれませんね。
レースゲームの最初の壁は、選択肢の多さだ。でも正解は、そこまで複雑ではない。
まずは一つのゲームで、一つのサーキットで、一貫して走れるようになること。それが、すべての始まりになる。